朝から雨が降っていた。
ただでさえ、陰気な病室の雰囲気をより重くさせる。
目が覚めるとまず採血。その後も、採血。
気づけば、僕の右腕は穴だらけだ。
呼吸器内科の診察では、血中の二酸化炭素濃度が高いことを指摘された。
胸骨の変形によって、炭酸ガスの交換がうまくできない身体らしい。
入院期間中に突きつけられる、自分の知らない新しいなにかは、
毎度のことながら、ネガティブなことばかりだ。
教授回診は、白い巨塔を彷彿させる厳かなものだった。
30秒くらいで患者が入れ替わり立ち代わる。
こんな儀礼的なもので、なにがわかるんだと言いたかった。
洗濯をしたり、お風呂に入ったりもしたけど、
血圧の低下から少しの動作で気分が悪くなる。
精神的な部分も大きいのだと思う。
19時からようやく手術説明を受けた。
術後のリスクを次から次へと矢継ぎ早に並べられ、
今日まで十分に膨らんでいた取り留めの無い不安は、
すっかり肥大化して、自分の思考を止めた。
いつもの手術ならこんなにも不安にならなかっただろう。
先の見えない不安が、弱った自分を押しつぶそうとしている。
僕はどちらかと言うと、臆病者だ。度胸なんてない。
生きていたら、目の前には不安なことばっかりが広がっている。
メールや書類の誤字脱字、エレベーターの有無、大きな仕事の納期。
ビビリだから、いつもちゃんと準備をして、最善をつくす。
不安の対象となる多くのことは、自分の力で変えられる可能性がある。
でも、手術は、自分ではどうにもならない。
いつも大きな不安を前にすると、「なるようにしかならない」、
「なんとかなる」とか、そんな楽観的なことを言ってきた。
今は、口が裂けてもこんなこと言えない。
楽観的に考えたり、そういった発言ができるのは、
なんらかの裏付けや確固たる自信があるときだけだと思う。
もしくは、どうでもいい、投げやりになっている時だ。
今回は自信も確証もない。もちろん投げやりにもなれない。
こういう時は、祈るしかないのかな。
ただひとつだけ、今日をポジティブに捉えることができる。
こういう夜を超えて、成長してきた。強くなった。
また「なんとかなる」と言える日が必ずくる。