天井だけの現実世界、日常という夢の世界

手術が終わって、あっという間に2週間が経った。天井を眺め続ける日々を送っている。病室という限られた空間、一瞬で一瞥できる世界にいる。

全国各地を仕事や講演、打ち合わせで飛び回った日々。タイ、ミャンマー、フランス、ブラジル、エクアドル。アメリカはワシントン、ニューヨーク、そして、トランジットで何十時間も過ごしたヒューストン空港。すべてが遠い過去で、すべてが夢だったのではないかと錯覚してしまう。

痛み止めの点滴が終わり、内服薬だけになって数日、ずいぶんと痛みは和らいだ。「心技体。すべてが整っていないと、いいパフォーマンスは出せない」と言われたことがあったけど、この数日でそれをまさに痛感した。身体の痛みはなくても、一向に心晴れない時間を送った。

病院生活というのは規則正しいものの、意外と自由な時間は少ない。時間がないわけではなくて、自分で予定を立てられない。自分で、自分の時間をコントロールできない。

例えば、保清(看護や介護の現場で使われる言葉で、清潔な状態を保つという意味)。僕のスケジュールはザッとこんな感じ。本来は曜日を決めて行うところ、状態が悪いことを考慮し、体拭きは看護師さんが毎日補助してくれる。そして、なによりありがたいことに、ベッド上にも関わらず、週に2回も洗髪をしてもらえる。これは、今まで入院してきた病院と比べると最多!

保清スケジュール

ただ、何事もすべての時間が定まらない。午前中の日もあれば、午後のときもある。病棟で過ごす患者さんは、当然、一人じゃないから仕方がない。他にも、医師による問診、レントゲンをはじめとする各種検査、気づけばあっという間に一日が終わっている。天井を眺め続け、朝起きたらまた天井が目の前に広がっている。ただそれだけの日々。

ふと我に返って、思いを巡らすと、やはり今までのことは全部、全部、夢だったのではと感じる程。手術でできたいくつもの身体の傷よりも、ずっと多くて、ずっと大きい心の傷ができていくような気がした。

日に日に痛みも落ち着き、身の回りのことも自分でできるようになって、身体の傷が癒えると、少しずつ心のそれも癒えていくように感じた。なによりも、社員のおかげだ。

声は出せなかったけど、初めて参加できたSkype会議。

Skype会議

どでかいタライと洗濯板を持ち込み、コントをして帰った社員たち。

手洗い選択隊1

手洗い選択隊2

どストライクすぎるハーゲンダッツを持ってきてくれた人事部長。

お見舞い会議

些細なことだけど、温かい出来事の連続がきっかけで、やっぱり今までのすべては、夢ではなかったんだと、そう感じられた。「いつでも、どこでも、社長は社長です」。社員からもらった一言は、まだ名ばかりだった病室支店を、本当に支店らしく思わせてくれた。

今日、状態が安定していることから、早々とリハビリを始めることになった。ストレッチャーに乗って病室を出て、眺めていたいつもの天井と、見える天井が変わって、それだけで、心の底から感動した。ふと天井から目を逸し、精一杯に首をひねって周りを見れば、ただの病棟だけど溢れんばかりの情報があって、なんだかクラクラしそうだった。

リハビリ室に着いてから、グッと気合いが入った。ここから始まるんだ!と。チルトテーブルという電動ベッドを使って、寝たきりのままで強制的に立位をとる。15度、30度、40度と少しずつ、起き上がる。ストレッチャーよりもずっと視界が広い。視界が変わって、世界が変わった気がした。

チルトテーブル

10年前、生きることを諦めようと思い詰めた時。3年前、心肺停止、昏睡状態から目を覚ました時。いつも、今までは夢だったのではと感じていた。いつも、当たり前の日々が夢のように輝いて見えた。そして、今日、起き上がって、視界が変わって、やっぱり、それだけで幸せだった。何度感じても忘れてしまう幸せを、もう一度、思い出すことができた。

当たり前のようで、当たり前ではない日々に。夢のようで、夢ではない世界に、僕はこれから少しずつ、この場所から一歩ずつ戻っていく。


垣内俊哉の初著書、好評発売中!
4,000万人の市場を生んだ反転戦略とは?

「バリアバリュー」

Amazonで購入する

オーディオブックを購入する

垣内俊哉の初著書 バリアバリュー
Share on LinkedIn
[`evernote` not found]
LINEで送る