万年筆で綴る文章と、手術後の身体で送る日々

出先ではボールペンを使う。もうずっと同じものを使っている。PARKERのジョッターで、デザインは1954年からずっと変わっていないそう。
ペン自体は軽いのに手にしっくり馴染み、書きやすい。さらに、壊れにくい。古くから愛されているものは、やっぱりなにかが違うのだと思う。
PARKER
大切なメッセージを送るとき、本を書いたとき、コラムやブログの投稿をするとき、ほとんどのものは、まず手で書くようにしている。
デジタル化の一途を辿る社会の中で、間違いなく逆行しているけど、タイピングで綴る文章と、書いて綴る文章では差が出ると感じるから。
やっぱり、一文字にかける思い、一行、一節に対する熱量が違う。

数年前、贈り物で万年筆をもらってから、家では万年筆を使うようになった。ボールペンで書くよりもコツがいるし、なによりメンテナンスに時間がかかる。
毎日ある程度の量を書いていれば、2ヶ月か3ヶ月に一度で済むものの、少し時間を空ければ、インクの出は悪くなり、早々に洗浄が必要になる。

万年筆で綴る文字に、趣きがあることはもちろんだけど、手間暇がかかっているからこそ、一つの文字への思い入れが違う。
今、書いているこの文章も、後からパソコンで打ち込むことになる。かなり非効率で、いわゆる生産性は低いのだと思う。
でも、才能がない以上、人より時間と労力をかけて文章を書くのは当然のこと。そう思うと、この習慣は当たり前のものになった。

万年筆のペン先を水に浸し、凝固していたインクが溶け出すのを待ちながら、もう一本の万年筆で今、この文章を書いている。

orange fountain

病室支店から本社勤務に戻って早3ヶ月。病院の1時間は長かったのに、今は1ヶ月があっという間だ。

11月の手術から2ヶ月は、痛みと寝たきりの生活に耐えた。
1月は新しく投与することになった薬の副作用に苦しんだ。
2月は一向に改善の兆しが見えないことに落胆した。
3月は再手術の可能性が急浮上して絶望していた。
4月にはこれ以上病院にいても良くはならないとのことで、思い切って退院した。
5月は言うことを聞かない身体での一人暮らし、自宅でのリハビリにずいぶん苦労した。
6月は少しずつ状態が良くなって、入院前と同じく新幹線や飛行機へ乗れるようになった。

そして、7月。慣れない身体での生活により、なにをするにも今までの倍以上時間がかかる。ついには、入院前と比べ、さらに睡眠時間が減ってしまった。きっとまた、検査結果はよくないだろうなぁと思いながら、この日も病院へ向かった。

すると、主治医も驚愕するほどの回復具合!予想外の出来事に感動して、思わず立ち上がった。
「垣内さんは仕事をすればするほど、良くなりますね!」と先生。「睡眠は、治癒過程に無関係!って論文が書けそうですね(笑) 」と僕。
診察室であんなにも明るい表情で、晴れ晴れと話せたのは何年ぶりのことだろう。

半年間の治療は、状況に応じて、3箇所の病院を転々とした。それでも、執刀してくれた主治医の先生は、毎週、必ず僕のいる病院まで足を運んでくれた。
転院先の医師から煙たがられるところ「最後まで見届けることが僕の責任ですから」と、いつも白衣を着たまま、時にサンダルで、僕のいる病院に駆けつけ、検査結果の確認が終わるとまた病院へ戻っていった。

先生だけではない。10年前に執刀してくれた先生、5名の理学療法士の方、3名の作業療法士の方が、半年間、懸命に治療とリハビリをサポートしてくれた。
また、半年もの間、じっくりと、しっかりと治療に専念できたのは、他でもない、同じ会社の仲間のおかげだ。本当に、感謝してもし尽くせない。

治療やリハビリにはお金がかかる。時間もかかる。健康でいることは、代え難い財産だと改めて思う。多くの人が力を貸してくれた結果、この身体があって、今の僕がいる。多くの人の思いが詰まった身体を、大切に使いたい。

最近は、また講演の機会を頂くことが増えた。参加者の方、さらには社員から「入院前よりパワーアップしていますね」と言われる。
きっと、万年筆で文字を書くように、大切な身体だからこそ、前より少しだけ一つの動き、一つの言葉に思いを込められているのだと思う。


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